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東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)17号 判決

東京都台東区雷門二丁目一六番一〇号

原告

橋本金属株式会社

右代表者代表取締役

橋本豊造

右訴訟代理人弁護士

飯塚弘

東京都台東区蔵前二丁目八番一二号

被告

浅草税務署長

北川烈

右訴訟代理人弁護士

須藤英章

右指定代理人

高梨鉄男

杉山喬一

大野木大次

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた判決

(請求の趣旨)

一  被告が昭和四五年一〇月二一日付で原告に対してした原告の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度以後の青色申告書提出承認を取り消す旨の処分を取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

主文と同旨

第二当事者双方の主張

(請求原因)

一  原告は、金属類の販売を業とし、青色申告書の提出承認(以下「青色承認」という。)を受けていた法人であるが、昭和四三年五月三一日に昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度(以下「係争事業年度」という。)分法人税について青色申告書により欠損金額五六七万九三五二円とする確定申告をしたところ、被告は昭和四五年一〇月二一日付で原告の青色承認を右事業年度以後取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

原告は、これを不服として、昭和四五年一二月一九日異議申立て、昭和四六年四月一七日審査請求をしたが、いずれも棄却された。

二  しかし、本件処分には青色承認の取消事由がない等の違法があり、本件処分は取り消されるべきである。

(請求原因に対する認否)

請求原因一の事実は認める。同二は争う。

(被告の主張)

一  原告は、二以下において述べるとおり、係争事業年度にかかる帳簿書類を法人税法施行規則(以下「規則」という。)の定めるところに従つて備付け、記録又は保存しておらず、また、係争事業年度の取引の一部を隠ぺい及び仮装して帳簿書類に記載していたものであり、前者は法人税法(以下「法」という。)一二七条一項一号に、後者は同三号に該当するから、本件処分に違法はない。

ところで、原告の係争事業年度にかかる総勘定元帳及び振替日記帳として本件訴訟に提出されているものには、それぞれ、決算時までに作成し係争事業年度の法人税確定申告の基礎としたと認められるもの(以下「原始分」という。)右申告後原始分の内容を改訂して作成したと認められるもの(以下「改訂分」という。)及び右改訂分をさらに一部改変して整備したと認められるもの(以下「改訂分の整備版」という。)、以上内容の異なる三種類が存在する。しかし、係争事業年度の法人税確定申告は原始分に基づいてされており、また、本件処分にかかる調査の際に原告から提示されたのは原始分だけであつたため、被告は原始分について検討した結果本件処分を行ったものである。法人の備付帳簿が青色申告についての法所定の要件を満たしているかどうかの判断は確定申告時を基準としてなされるべきであるから、原告の青色承認取消事由の存否を判断するについては、確定申告時に存在しなかつた改訂分や改訂分の整備版は無関係である。なお、右三種類の帳簿を書証と対比して一覧表にすると、別紙一のとおりである。

二  法一二七条一項一号該当事由

青色承認を受けている内国法人は、規則で定めるところにより、帳簿書類を備付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならず(法一二六条一項)、帳簿書類の備付け、記録又は保存が規則で定めるところに従って行われていない場合には、青色承認の取消事由となる(法一二七条一項一号)。そして、右をうけた規則は、青色申告法人は、その資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明瞭に記録し、その記録に基づいて決算を行わなければならないこと(五三条)、青色申告法人は、すべての取引を借方及び貸方に仕訳する仕訳帳、すべての取引を勘定科目の種類別に分類して整理計算する総勘定元帳その他必要な帳簿を備え、規則別表二〇に定めるところにより、取引に関する事項を記載しなければならないこと(五四条)、青色申告法人は、仕訳帳には、取引の発生順に、取引の年月日、内容、勘定科目及び金額を記載しなければならず、総勘定元帳には、その勘定ごとに記載の年月日、相手方勘定科目及び金額を記載しなければならないこと(五五条)を定めており、また、規則別表二〇によれば、現金の出納に関する事項を記載する帳簿には、取引の年月日、事由、出納先及び金額のほかに、日々の残高を記載することを要するとされている。ところが、

1 第一に、原告が現金の出納に関する事項を記載している振替日記帳(原告は仕訳帳と兼用している。)には、日々の現金残高の記載がなく、規則別表二〇に定める記載事項を満たしていない。

2 第二に、原告の仕訳帳を兼ねている振替日記帳には取引の発生順と著しく異なる記載がなされており、また、原告の総勘定元帳の各勘定には、いずれもその相手科目の記載がなく、さらに、勘定科目によつては、取引発生順と著しく異なる記載がなされている。即ち、振替日記帳の記載は規則五五条一項に、総勘定元帳の記載は同条二項に定めるところにそれぞれ違反している。

3 第三に、原告は、家賃地代の収支にかかる取引について、本来なら、例えば「(借方)現金、(貸方)家賃地代」等と日々仕訳し、振替日記帳及び総勘定元帳の家賃地代勘定等に整然かつ明瞭に記録すべきであるのに、これを行わず、単にその収入だけを裏帳簿(乙第一一号証)に記録しておき、決算期に至り、急遽家賃地代勘定(乙第一五号証)を作成して、これに右裏帳簿に記録された家賃収入の一部とこれに対応する家賃地代支出額を計上した。このような扱いは、複式簿記の原則に従つて記録すべき旨を定めている規則五三条に違反する。

4 第四に、原告は、家賃地代勘定に架空の支払地代一〇一万九九九〇円を計上し、これにより決算時に作成した残高試算表の借方合計金額と貸方合計金額とが一致するように辻褄を合せた。このことは、原告の帳簿の記録が規則五三条に違反していたことを示すものである。

5 第五に、一般には、借入金については、その都度、事実を明瞭に記録すれば修正記入する必要は起こらないと考えられるにもかかわらず、原告代表者橋本豊造個人からの借入金については修正記入が多く、また、帳簿の記録から導き出される期末借入金残高が決算書に計上された金額と一致しない。このことは、借入金の記録が整然かつ明瞭に行われておらず、また、原告の決算が帳簿の記録に基づかないで行われていたことを示すものであり、規則五三条に違反する。

6 第六に、原告は、収益として計上すべき台貫収入(金属の重量を計測する台貫設備の利用料)七八万四五六〇円を帳簿に記録しながら、確定申告の決算書にはこれを計上していない。即ち、決算が帳簿に基づかずに行われたものであり、規則五三条に違反する。

三  法一二七条一項三号該当事由その1(家賃収入の隠ぺい)

原告は、係争事業年度中に家賃収入が現実には一四一二万八九六八円あつたにもかかわらず、決算時に作成した家賃地代勘定にはそのうちの八七九万二六八三円だけを計上し、差額の五三三万六二八五円にかかる取引を隠ぺいして記載した。

右隠ぺいにかかる家賃収入の内訳は別紙二(一)(二)のとおりであり、これらを原告の家賃収入と認めた根拠は左記のとおりである。

1 別紙二(一)1の賃借人佐藤茂に対する江戸川区南小岩四丁目九番九号所在の賃貸建物からの賃料収入については、〈1〉原告自身が右賃料収入を一部ではあるが公表帳簿に計上して申告していること、〈2〉申告外の収入が裏帳簿(乙第一一号証)に記載されていること、〈3〉原告代表者橋本豊造が、同人個人についての所得税の決定処分に対する異議申立時に、右賃貸建物から生ずる家賃収入が同人個人ではなく原告に帰属する旨を主張し、その主張が異議申立審理を担当した江戸川税務署長に認められたこと、〈4〉右建物の所有者である橋本豊造個人から原告に対する賃貸及び原告から佐藤茂に対する賃貸(転貸)の事実が表示された契約書(甲第一三、一四号証、乙第六号証の二)が存在すること、〈5〉原告が翌事業年度の収益として右賃料を帳簿に計上していること、から原告に帰属するものと認めた。また、計上漏れの金額は、裏帳簿や契約書等から算定した正当額と申告額との差額である。

2 別紙二(一)2ないし15の門脇育郎らに対する江戸川区中央三丁目(旧東小松川五丁目)所在の賃貸建物からの賃料収入が原告に帰属することは争いがないが、裏帳簿等によると、公表帳簿には収入金額の一部について別紙二(一)の各差引更正額欄のとおりの金額の計上漏れがあると認められた。

3 別紙二(二)1ないし5の岩田ボールト工業株式会社らに対する品川区西五反田二丁目(旧大崎本町一丁目)所在の賃貸建物のうち、三〇番九号所在家屋番号三〇-五-八の建物からの賃料収入については、前記1〈2〉ないし〈5〉と同様に、裏帳簿に記載があり、橋本豊造が同人ではなく原告に帰属する旨を主張し、契約書(甲第一五号証、乙第六号証の一、五等)が存在し、翌事業年度の帳簿に計上している。また、同所三〇番九号所在の家屋番号三〇-五-六の建物及び同所三一番五号所在の建物については、係争事業年度当時の登記簿上の所有者が原告であり、その固定資産税を原告が支払い、さらにその敷地について原告が借地権を有する旨が原告の貸借対照表に記載されている。以上の点から、右賃料を原告の収入と認めた。

4 別紙二(二)6ないし8の有限会社矢崎ふとん店らに対する品川区西五反田二丁目三〇番七号所在の賃貸物件からの賃料収入は、原告が橋本豊造から賃借した建物の敷地の一部を駐車場として貸して得たものである。右収入が原告に帰属することは、前記1〈2〉ないし〈5〉と同様な裏帳簿の記載、橋本豊造の主張、契約書(甲第八号証、乙第六号証の三、四等)の存在、翌年度帳簿への計上のほか、橋本豊造が江戸川税務署長に提出した収支明細書(乙第四号証の二)にも右物件を原告に賃貸している旨記載されていた事実から明らかである。

5 別紙二(二)9、10の株式会社尾張屋らに対する台東区雷門二丁目一六番一〇号所在の賃貸建物からの賃料収入については、前記1〈2〉ないし〈5〉と同様な裏帳簿の記載、橋本豊造の主張、契約書(乙第一八号証)の存在、翌年度帳簿への計上のほか、右賃貸建物が原告の貸借対照表に資産として計上されていることから、原告の収入と認めた。

6 別紙二(二)11の賃借人小畑実に対する江戸川区中央三丁目一三番一四号所在の賃貸建物からの賃料収入は、目的物件の所在地が前記2と同じであることからみて原告に帰属すると認めた。

7 別紙二(二)12の扇谷つよしに対する江戸川区南小岩二丁目七番三号所在の賃貸建物及び同13の高橋雄一に対する同区興之宮一五八-一所在の賃貸建物からの賃料収入については、前記1〈2〉ないし〈5〉と同様な裏帳簿の記載、橋本豊造の主張、契約書(甲第一三、第一四号証、乙第六号証の六等)の存在、翌年度帳簿への計上から、原告の収入と認めた。

8 別紙二(二)14ないし19の各賃借人からの賃料収入は、裏帳簿の記載により原告に帰属すると認めた。

四  法一二七条一項三号該当事由その2(台貫料収入の隠ぺい)

原告は、橋本豊造個人から金属の重量を計測する台貫の設備を賃借し、これを付近の利用者に有償で使用させ、その使用料収入が係争事業年度中に七八万四五六〇円あつたにもかかわらず、決算上これを収益に計上せずに隠ぺいした。

右収入が原告に帰属することは、原告が昭和四〇年六月一七日橋本豊造個人から台貫設備を賃借し、係争事業年度後の昭和四三年四月一日以降これを解除する旨の契約書(甲第一四号証、乙第二号証)があること及び東京都計量検定所長に対し原告名義で計量事業の登録がされていることからみて明らかである。

五  法一二七条一項三号該当事由その3(支払地代の仮装計上)

原告は、係争事業年度において、訴外大場らに対して地代を支払つたごとく仮装し、家賃地代勘定に架空の支払地代一〇一万九九九〇円を計上した。

(被告の主張に対する原告の認否)

一  被告の主張一前段は争う。同一後段のうち、内容が異なる帳簿が存在することは認めるが、その余は否認する。

二1  同二1は争う。

2  同二2のうち、総勘定元帳の各勘定に相手科目の記載がないことは認めるが、その余は争う。

3  同二3は争う。

4  同二4のうち、原告の家賃地代勘定に架空の支払地代一〇一万九九九〇円が計上されていたことは認めるが、その余は争う。

5  同二5のうち、原告代表者橋本豊造個人からの借入金について修正記入があることは認めるが、その余は争う。

6  同二6は争う。

三  同三冒頭の事実は否認する。原告の係争事業年度中の家賃収入は計上した八七九万二六八三円だけである。

1 同三1のうち、原告が別紙二(一)1の佐藤茂からの賃料収入の一部を公表帳簿に計上していること、原告が佐藤茂に賃貸したかのような記載のある契約書があること、原告が右賃貸物件からの翌年の賃料収入を翌事業年度の帳簿に計上していることは認めるが、その余は争う。

2 同三2のうち、原告が別紙二(一)2ないし15の各賃借人に対して賃貸していた事実は認めるが、計上漏れがあるとの事実は否認する。

3 同三3のうち、別紙二(二)1ないし5の岩田ボールト工業株式会社らが賃借している建物について、原告がこれを賃貸したかのような記載のある契約書があること、品川区西五反田二丁目三〇番九号所在家屋番号三〇-五-六の建物及び同所三一番五号所在の建物について原告が登記簿上の所有者となつていたことは認めるが、その余は争う。

4 同三4のうち、別紙二(二)6ないし8の有限会社矢崎ふとん店らが駐車場として使用している部分について、原告がこれを同人らに賃貸したかのような記載のある契約書があることは認めるが、その余は争う。

5 同三5のうち、別紙二(二)9、10の株式会社尾張屋らが賃借している建物が原告の貸借対照表に資産として計上されていること、右尾張屋との間に原告を賃貸人とするかのような記載のある契約書があることは認めるが、その余は争う。

6 同三6ないし8は争う。

四  同四前段の事実は否認する。同四後段のうち、原告が昭和四〇年六月一七日橋本豊造個人から台貫設備を賃借した旨の契約書(甲第一四号証)があること及び被告主張の登録があることは認めるが、その余は争う。

五  同五のうち、家賃地代勘定に架空の支払地代一〇一万九九九〇円が計上されたことは認める。

(原告の反論)

一  原告の帳簿について

総勘定元帳及び振替日記帳に内容の異なる複数のものが存するのは、以下の事情によるものである。即ち、

原告代表者橋本豊造が代表取締役をしていた別会社である橋本金属工業株式会社が昭和四〇年五月六日不渡手形を出して倒産し、同年六月一八日破産宣告を受けたため、関連会社の原告も休業せざるを得なくなつた。原告は、約二年の休業後、昭和四二年四月一日に事業を再開したが、その際、橋本豊造の息子豊四郎が新和商会の名称で昭和四一年夏頃より開始していた黄銅等のスクラツプの売買業(個人経営)を引き継いだ。ところが、右引継及び原告の事業再開後、原告の再開後における取引及び豊四郎個人の他の取引が従前の新和商会の帳簿に続けて記録されてしまつたので、これに気付いた橋本豊造は、昭和四三年四月頃、別個の振替日記帳に原告の取引だけを抽出して書き写し、また、ルーズリーフ式の新和商会の元帳から豊四郎個人の取引を記録した分を取り外して原告の取引だけが記録された総勘定元帳にした。

したがつて、右のようにして豊四郎個人の取引を分離して作成したものが原告の帳簿であるが、本件において被告が原始分と称するものは右分離前の豊四郎の個人企業である新和商会の帳簿であり、被告が改訂分と称するものは豊四郎の個人取引を分離した後の帳簿をいうのであるから、正式に原告の帳簿というべきものは被告が改訂分と称するものにほかならない。そして、本件処分に際して被告が調査をしたのは右改訂分であるから、本件青色承認取消事由の存否は被告のいう改訂分を対象として判断されるべきである。なお、被告のいう改訂分の整備版なるものは存在しない。

二  法一二七条一項一号該当事由について

1 規則別表二〇所定の記載

原告の振替日記帳は、総勘定元帳の振替勘定と現金勘定を兼ね、日々各欄の合計を差引計算して現金残高を計算することができるから、現金残高は明確に記帳されているというべきである。

2 相手勘定科目の記載

元来、総勘定元帳に相手科目を記載する必要はない。原告の場合、振替日記帳に相手科目を記載しており、総勘定元帳には取引の具体的内容を記載している。他社の場合も原告と同様であり、原告は、このような記録方法について、長年の間一度も規則に違反するとの指摘を受けたことがない。

3 架空支払地代の記帳及び借入金の修正記入

右の二つは、記帳担当者の未熟に由来する単なるミスであり、これをもつて直ちに法一二七条一項一号に該当するということはできない。

4 台貫料収入の決算書不計上

右収入は、後記のとおり橋本豊造個人に帰属するものである。

三  法一二七条一項三号該当事由その1(家賃収入の隠ぺい)について

原告の係争事業年度中の家賃収入は、原告が橋本豊造個人から賃借した江戸川区中央三丁目所在の建物(別紙二(一)2ないし15のもの)を転貸して得た八七九万二六八三円だけであり、被告が隠ぺいしたと主張するその余の家賃収入の大半は、原告に帰属すべきものではなく、賃貸物件の所有者である橋本豊造個人に帰属するものである。このことは橋本豊造個人の所得税についての審査請求を担当した国税不服審判所長も認めたところである。

以下、別紙二の項目別に反論する。

1 別紙二(一)1の建物は、橋本豊造が原告に賃貸し原告が佐藤茂に転貸していたものではなく、橋本豊造個人が直接佐藤茂に賃貸していたものである。右賃料収入の一部を原告に帰属するものとして公表帳簿に計上し、九万円を原告の収入として申告したのは、誤りである。また、原告が賃貸人となつた契約書があるのは、真実の賃貸人橋本豊造個人をそのまま契約当事者とすると借家法所定の明渡要件である自己使用の必要性を満たすのが困難と予想されたために、会社である原告の名義を貸して一時使用の賃貸借としただけのことである。さらに、原告が右賃料収入を翌事業年度の帳簿に計上したのは、毎年赤字の増大する原告の経営状態を少しでも良く見せて対外的信用を確保するために橋本豊造個人と合意の上でした偽装である。

2 別紙二(一)2の門脇育郎からの賃料収入は申告額一四万一六〇〇円が正しい。同人が入居したのが昭和四二年四月七日であるから、四月分の家賃は一日から六日までの分二四〇〇円を控除して計算したものである。被告主張の一四万四〇〇〇円は右を看過したものである。

3 別紙二(一)の3ないし15の各賃借人からの賃料収入については、現実に受領した金額を帳簿に計上した。そのほかに、履行を受けられなかつたものや、賃借人が行方不明となり回収不能になつたものがあるが、これらは収入に算入できないものである。

4 別紙二(二)1ないし5の岩田ボールト工業株式会社らが賃借している建物の所有者は橋本豊造個人であり、同人が直接右会社らに賃貸していたものである。原告は、昭和四〇年六月二七日橋本豊造個人から右建物を賃借したことがあるが、右賃貸借が昭和四一年五月一八日に解除されたので、係争事業年度当時賃借権を有しておらず、したがつて他に転貸する余地がなかつた。また、右建物のうち品川区西五反田二丁目三〇番九号所在の家屋番号三〇-五-六の建物及び同所三一番五号所在の建物について、原告が登記簿上の所有者になつていたのは、以下の事情による。即ち、前記のとおり橋本金属工業株式会社は昭和四〇年五月六日に不渡手形を出して同年六月一八日に破産宣告を受けたが、右のような事態の発生が予想された昭和四〇年三月一五日、関連会社である原告だけは存続させるようにするために、橋本金属工業株式会社の所有する右建物及び別紙二(二)9、10の建物について昭和三九年四月一日に売買があつたかのように仮装して原告に所有権移転登記手続をした。しかし、橋本金属工業株式会社破産管財人から否認権を行使され、取戻しの民事訴訟において敗訴を免れない形勢となつたので、昭和四一年五月一八日、同管財人との間において、橋本豊造個人がその所有資産を管財人に提供し、その見返りとして前記登記にかかる建物を橋本豊造個人が取得する旨の和解が成立した。右和解によりこれらの建物は橋本豊造個人の所有に帰したが、その後も、原告の対外的信用を確保するために、前記不実の登記を訂正せず原告の名義のまま放置していたものである。

5 別紙二(二)6ないし8の賃借物件も橋本豊造個人の所有である。原告は、昭和四二年四月一日橋本豊造個人から同人所有の品川区西五反田二丁目三〇番七号所在の本造平家建店舗兼住宅一棟二五坪を賃借し、自ら使用しているが、その敷地の一部である空地は賃借しておらず、これは所有者である橋本豊造個人が駐車場として有限会社矢崎ふとん店らに直接賃貸しているものである。したがって、その賃料収入は原告に帰属するものではない。これらの賃借人との賃貸借契約書に原告が賃貸人として記載されているのは、前同様に一時使用を目的とする賃貸借として明渡を容易にするための便法にすぎない。

6 別紙(二)(三)9、10の株式会社尾張屋らが賃借している建物が原告の貸借対照表に資産として計上されているのは、原告の対外信用確保のための偽装であり、右建物は橋本豊造個人の所有で同人が右尾張屋らに直接賃貸していたものである。この間の事情は前記4において述べたとおりであつて、原告を賃貸人とする契約書があるのは、前同様に一時使用の目的を仮装するための便法である。

7 別紙二(二)11の建物は橋本豊造個人の所有であり、同人が本件係争事業年度前に小畑実に直接賃貸した事実はあるが、原告が賃貸したことはない。

8 別紙二(二)12、13の建物は橋本豊造個人の所有であり、同人が直接扇谷つよしらに賃貸していたものである。

9 別紙二(二)14ないし19の建物も右同様であり、その賃料が家賃地代勘定に計上されていたとしても、右勘定には橋本豊造個人の取引も記載されていたから、その賃料収入を原告のものと認める根拠にはならない。

四  法一二七条一項三号該当事由その2(台貫料収入の隠ぺい)について

被告が主張する台貫料収入七八万四五六〇円は台貫設備の所有者である橋本豊造個人に帰属するものである。同人は右収入を個人の事業所得として経理し所得税の確定申告をしている。

被告は、昭和四〇年六月一七日から昭和四三年三月末日まで台貫設備が原告に賃貸されていた旨を主張するが、昭和四二年四月一日成立の橋本豊造個人と原告との契約(甲第一七号証の一)により、台貫設備は賃貸物件から除外され、原告は係争事業年度中において台貫設備の賃借権を有しなかつたのである。被告が指摘する乙第二号証の契約書は、右甲第一七号証の一の契約書を確認する趣旨のものにすぎず、右原告の主張と異なる内容を記載しているものではない。また、右台貫設備について原告名義の登録がされているのは錯誤によるものであり、その後橋本豊造個人の登録に訂正されている。

五  法一二七条一項三号該当事由その3(支払地代の仮装計上)について

架空の支払地代一〇一万九九九〇円が計上されたのは、原告が決算報告書の作成を依頼した者が誤って記載したためであり、その後誤りを訂正して修正申告をしたが、許容されなかつた。

六  裁量権の濫用

原告は、昭和三四年に青色承認を受けて以来、一度として帳簿の記録方式等について指摘を受けたことがない。ところが、本件処分に先立つ調査は当初から原告の青色承認を取り消す目的をもつてなされ、原告が被告の疑問とするところを知つてこれに答えるために再三にわたり問題点がどこにあるかを質問したにもかかわらず、被告は何らの説明もせずに突然本件処分をもつて答えてきた。このようにして行われた本件処分は裁量権を濫用した違法なものであるというべきである。

七  理由付記の不備

本件処分通知書には法一二七条一項一号、三号に掲げる事実に該当するとして五項目の事項が列挙されているが、これだけでは取消原因事実を具体的に知ることができず、付記理由が不備というべきである。

(被告の再反論)

一  本件処分に裁量権の濫用があるとの原告の主張は争う。

二  原告は、本件処分の理由付記が不備である旨を主張するが、本件処分通知書には、法一二七条一項一、三号に掲げる事実に該当するとして「1家賃収入のうち佐藤茂外三三件五三三万六二八五円が計上もれとなつています。2台貫収入七八万四五六〇円が計上もれとなつています。3昭和四三年三月三一日大場栄一、神原一夫に支払つた地代一〇一万九九九〇円は事実がありません。4複式簿記の原則に従い元帳および補助簿が記録され、それに基く決算がなされておりません。5取引に関する記載事項が不十分で取引の発生順に年、月、日、内容、勘定科目および金額の記載がなされておりません。」と記載されており、処分を受けた原告が内容を容易に了知できるから、理由付記に不備はない。

第三証拠関係

一  原告

1  甲第一号証、第二号証の一ないし五、第三ないし第一六号証、第一七号証の一、二、第一八ないし第三六号証、第三七号証の一、二、第三八ないし第四五号証、第四六号証の一、二、第四七号証、第四八号証の一、二、第四九号証

2  証人大槻良治の証言、原告代表者尋問の結果

3  乙第一号証のうち、橋本豊造の署名の成立は認めるが、その余の部分は不知。乙第四号証の一、三のうち、欄外に書き込まれた部分の成立は不知、その余の部分の成立は認める。乙第三号証の二、第七、第八号証の各一、二、第一一、第一二号証、第一三、第一四号証の各一、二、第二〇号証の成立(乙第一一号証は原本の存在及び成立)は不知。その余の乙号証の成立(乙第一八、第一九号証は原本の存在及び成立)はすべて認める。

二  被告

1  乙第一、第二号証、第三、第四号証の各一ないし四、第五号証、第六号証の一ないし六、第七ないし第九号証の各一、二、第一〇ないし第一二号証、第一三、第一四号証の各一、二、第一五ないし第二〇号証

2  証人岩本忠、同中野政次郎、同川畑璋一の各証言

3  甲第二号証の二のうち、末葉裏の下から一、二行目の記載を抹消する趣旨の横線二本の記載部分の成立は不知、その余の部分の成立は認める。甲第一四、第二二号証のうち、各公証人作成部分の成立は認めるが、その余の各部分の成立は不知。甲第三四号証のうち、官公署作成部分の成立は認めるが、その余の部分は不知。甲第一号証、第二号証の一、第四ないし第六号証、第八ないし第一一号証、第一六号証、第一八ないし第二〇号証、第三七号証の一、二、第三八ないし第四〇号証、第四二ないし第四五号証、第四七号証、第四八号証の一、二の各成立(甲第四八号証の一、二は原本の存在及び成立)は認める。その余の甲号証の成立はすべて不知。

理由

一  請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  本件処分の適否を検討するに先立ち、まず、原告の帳簿について検討する。

1  証人岩本忠及び同中野政次郎の各証言並びに原告代表者尋問の結果(後記不採用部分を除く。)によれば、本件処分の前提となつた調査は昭和四五年四月頃に開始されたが、右調査開始から本件処分がなされた同年一〇月二一日までの調査期間中に原告から被告に対して原告の係争事業年度分の振替日記帳であるとして乙第七号証の二の帳簿、家賃地代勘定を除いた総勘定元帳であるとして乙第八号証の二の帳簿及び総勘定元帳のうちの家賃地代勘定であるとして乙第一一、第一二、第一五号証の各帳簿が提示されたことが認められる。原告代表者は、乙第七、第八号証の各二及び乙第一一号証の帳簿を本件処分の調査時に提示した覚えはない旨供述するが、前記各証言と対比して採用できない。そして、総勘定元帳のうちの家賃地代勘定として提示された右乙第一一、第一二、第一五号証の三種類の帳簿についてさらに調べてみると、前掲各証言、成立に争いのない甲第一号証及び証人岩本忠の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証(橋本豊造の署名の成立については争いがない。)によれば、(一)乙第一一号証の家賃地代勘定には、係争事業年度中に差引合計一〇〇〇万円程の家賃地代収益があつたように記載され、確定申告の基礎となつた決算書(甲第一号証)において家賃地代について六二万七三〇七円の損金が計上されていることと符合せず、また、記載された勘定項目の前提となる仕訳帳(原告の場合は、振替日記帳が仕訳帳の性質も兼ねることは後記認定のとおりである。)の記載箇所を示す丁数欄が空白となつているために仕訳帳との対照が困難であること、さらに、右家賃地代勘定と乙第七号証の二の振替日記帳の記載内容はほとんど対応しないこと、しかし、右家賃地代勘定には後記認定のとおり賃貸物件の帰属及び賃貸借契約書の記載等からみた場合に原告に帰属すると判断される家賃地代収入が多く記載されていること、(二)乙第一二号証の家賃地代勘定は、昭和四二年(これは昭和四三年の誤記と認められる。)三月三一日の欄に四項目の取引が記載されただけのものにすぎないが、乙第七号証の二の振替日記帳の昭和四三年三月三一日における取引を記載した部分(末葉裏)に完全に符合するものであり、また、借方貸方の期末差引残高は六二万七三〇七円となつて決算書に計上された前記家賃地代の損金六二万七三〇七円と符合すること、(三)乙第一五号証の家賃地代勘定は、調査後半の昭和四五年九月一九日に至りはじめて提示されたものであるが、乙第七号証の二の振替日記帳の記載内容と相当程度対応する記載がされていること、また、右家賃地代勘定末葉裏には、係争事業年度末における受入家賃地代と支払家賃地代との差引残高が三九万二六八三円の黒字となる旨が記載されているのに続いて、同日の支払地代として一〇一万九九九〇円が計上されており、これから右の黒字分三九万二六八三円を差し引くと、確定申告の基礎となつた決算書に計上された家賃地代の損金額六二万七三〇七円と符合すること、以上の各事実が認められる。

右認定の事実からすれば、乙第七号証の二の振替日記帳、乙第八号証の二の総勘定元帳、乙第一一、第一二、第一五号証の各家賃地代勘定はいずれも原告の帳簿であつて、係争事業年度末の決算及び確定申告時までに作成されていたものであるが、右のうち乙第一一号証の家賃地代勘定はいわゆる裏帳簿であると認めるのが相当である。

2  つぎに、本訴においては、右1に挙げた乙号証の帳簿のほかに、原告の係争事業年度の振替日記帳であるとして乙第九号証の一、二、第一三号証の二の各帳簿、総勘定元帳であるとして乙第一〇号証、第一四号証の二の各帳簿、総勘定元帳の家賃地代勘定であるとして甲第二号証の二の帳簿が提出されている。このうち、甲第二号証の二の帳簿は原告が本件異議申立書(甲第二号証の一)に添付したものであり、また、証人中野政次郎の証言と弁論の全趣旨によれば、乙第一三、第一四号証の各二の帳簿は本件審査請求審理の段階において原告から審査庁に対して提示されたが、乙第九号証の一、二、第一〇号証の各帳簿はその際にも提示されなかつたことが認められる。これに反する原告代表者の供述は採用できない。そして、これらの帳簿の形式、内容を検討すると、乙第一三、第一四号証の各二の振替日記帳及び総勘定元帳は被告の調査時に提示された前記乙第七、第八号証の各二の振替日記帳及び総勘定元帳とは一見して異なるものであること、右乙第一四号証の二の総勘定元帳中の家賃地代勘定は、調査時に提示された前記乙第一五号証の家賃地代勘定の末葉裏の下から一、二行目を横線二本で抹消してあるほかはすべて右乙第一五号証の家賃地代勘定(末葉裏の縦書の文章部分を除く。)と同一であり、かつ、甲第二号証の二の家賃地代勘定と同一であること、さらに、乙第九号証の一、二の振替日記帳及び乙第一〇号証の総勘定元帳は審査請求の段階までに提示された以上の各帳簿とも異なつており、前記乙第一三号証の二の振替日記帳及び乙第一四号証の二の総勘定元帳に一部書き加えてこれを整理したものであることが明らかである。これに反する原告代表者の供述は採用できず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実からすれば、被告の本件調査時に提示されなかつた乙第九号証の一、二、第一三号証の二の各振替日記帳、乙第一〇号証、第一四号証の二の各総勘定元帳、甲第二号証の二の家賃地代勘定は、いずれも、反対の十分な立証がされない限り、右調査後に作成されたものと推定せざるを得ない。とりわけ、乙第一四号証の二の総勘定元帳中の家賃地代勘定は、昭和四五年九月一九日(調査時)に提示された乙第一五号証の家賃地代勘定の末葉に前記のとおり一部抹消を加えたものであるから、少なくとも同日以後に作成されたことは明らかである。

3  原告は、約二年の休業後の昭和四二年四月一日に、代表者橋本豊造の息子豊四郎が新和商会の名称で営んでいた黄銅等のスクラツプ売買業を引き継いで原告の事業を再開したが、新和商会の帳簿に原告の再開後の取引を続けて記録してしまい、これに気付いた昭和四三年四月新和商会分と原告分の帳簿を分離したものであり、前記1掲記の乙号証の帳簿が右分離前の新和商会の帳簿、同2掲記のその余の乙号証の帳簿が右分離後の原告の帳簿である旨を主張する。

しかし、昭和四三年四月に既に作成されていたという右分離後の原告の帳簿がその後の昭和四五年四月頃から開始された調査の際にはなにも提示されず、かえつて原告が分離前の新和商会の帳簿であるという帳簿が原告の帳簿として提示されたことは前認定のとおりであるし、また、原告の右主張のとおりであるとすれば、原告が新和商会の事業を引き継いで自己の事業を再開した昭和四二年四月一日を境にして、それ以前が新和商会分の取引、それ以後が原告分の取引となるはずであるから、前記1の帳簿に新和商会が営業を停止したという昭和四二年四月一日以降の同商会の取引が記帳されていること自体不可解であり、さらに、乙第八号証の二の総勘定元帳から原告分の取引を記帳した部分だけを取り外したものであるという乙第一四号証の二の総勘定元帳に右乙第八号証の二と一部同一の取引が記帳されている(例えば、乙第八号証の二の総勘定元帳の仕入勘定の昭和四三年三月二三日の借方欄に記帳されている切粉一五万五二〇四円及び棒中一万六九一五円は乙第一四号証の二の総勘定元帳の昭和四三年三月二五日の仕入金額欄にも記帳されている。)ことも理解し難いところである。この点に関する原告代表者の供述は曖昧であって措信することができず、他に原告の前記主張を肯認するに足りる証拠はない。

以上によれば、原告の帳簿との関係において青色承認取消事由の存否を判断するにあたつては、前記1掲記の乙号証の各帳簿のうちいわゆる裏帳簿と認められる乙第一一号証を除くその余の帳簿を対象とすべきものである。

三  法一二七条一項一号該当性について

1  振替日記帳の現金残高の記載

前掲乙第七号証の二及び証人岩本忠の証言によれば、原告会社には固有の現金出納帳がなく、乙第七号証の二の振替日記帳が現金出納帳を兼ねていたが、右振替日記帳には日々の現金残高の記載が全くないことが認められる。そうすると、原告の振替日記帳は規則五四条、同別表二〇区分(一)の定めに違反することになる。

原告は、日々各欄の合計を差引計算して現金残高を算出できるから規則別表二〇の定めるところに違反していない旨を主張するが、右規則の趣旨は、現金残高が算出可能であれば足りるとするものではなく、現金残高を日々明記させることにより記録上の現金残高と現実の現金残高とを照合させて記帳の正確性を担保しようとするものであるから、日々の現金残高が実際に記載されていない以上、規則別表二〇に違反すると解すべきである。

2  取引の記載順序と相手科目の記載

前掲乙第七、第八号証の各二、証人岩本忠の証言によれば、仕訳帳を兼ねる乙第七号証の二の振替日記帳には昭和四三年三月三〇日の欄から四丁分にわたり取引の発生順と異なる記載がされていること、乙第八号証の二の総勘定元帳には、いずれも相手科目の記載がなく(このことは当事者間に争いがない。)、また、勘定科目によつては取引の発生順と異なる記載があることが認められる。このことは規則五五条一、二項に違反するものである。

原告は、総勘定元帳に具体的取引内容を記載し、振替日記帳に相手科目を記載しているから、このような場合には総勘定元帳に相手科目を記載する必要がないと主張するが、前掲乙第七、第八号証の各二によれば、乙第七号証の二の振替日記帳の丁数欄の記載に従つて対応する乙第八号証の二の総勘定元帳の該当部を見た場合にも、逆に、右総勘定元帳の丁数欄の記載に従つて対応する右振替日記帳の該当部分を見た場合にも、符合しない項目が多々あり、両帳簿の対応関係は相当に不備であることが認められるから、原告の右主張は失当である。

3  家賃地代勘定の記載

前掲乙第一五号証及び原告代表者尋問の結果によれば、原告は、係争事業年度中に八四〇万円の家賃地代の支払をしたとしながら、乙第一五号証の家賃地代勘定には、右支払家賃地代を支払の都度記載することをせず、期末において右帳簿にこれを一括して計上したことが認められる。このことは、資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明瞭に記録すべきことを定めた規則五三条に違反するものであることは明らかである。

4  架空支払地代の計上

前掲乙第一五号証の家賃地代勘定に架空の支払地代一〇一万九九九〇円が計上されていることは当事者間に争いがなく、このように実際には存在しない取引を記帳すること自体規則五三条に違反するというべきである。

5  借入金勘定の記載

前掲乙第八号証の二及び証人岩本忠の証言によれば、乙第八号証の二の総勘定元帳の橋本豊造からの借入金勘定には修正記入が多く(このことは当事者間に争いがない。)、また、右帳簿の記録から算出される期末借入金残高は確定申告書添付の決算書(甲第一号証)に記載された同人からの借入金一億六四〇八万一二〇七円と一致しないことが認められる。したがつて、借入金勘定の記録が整然かつ明瞭に行われておらず、また、決算が帳簿の記録に基づかないで行なわれており、規則五三条に違反するというべきである。

6  台貫料収入の決算書不計上

前掲甲第一号証及び乙第七、第八号証の各二によれば、乙第七号証の二の振替日記帳には後記のとおり原告の収入と認めるべき台貫料収入についての取引が記載され、また、乙第八号証の二の総勘定元帳にも台貫勘定があり、右勘定によれば係争事業年度末における台貫料の差引収益残高は七九万七一八〇円、期首における前期分の繰越が一三万一八五〇円と記載されていること、したがつて右勘定には係争事業年度中に台貫料収益が右両者の差額の六六万五三三〇円あつたと記帳されていることになるわけであるが、確定申告書添付の決算書には台貫料収入が全く計上されていないこと、以上の事実が認められる。そうすると、右台貫料収入については、帳簿に基づかずに決算が行われていることになり、規則五三条に違反する。

四  法一二七条一項三号該当性その1(家賃収入の隠ぺい)について

1  別紙二(一)1の佐藤茂からの賃料収入

佐藤茂に対する江戸川区南小岩四丁目九番九号所在の建物の賃貸による賃料収入に関し、その一部が原告の公表帳簿(乙第一四号証の二の総勘定元帳中の家賃地代勘定及び甲第二号証の二の家賃地代勘定)に計上されていること、原告が右建物を佐藤茂に賃貸したかのような記載がある契約書(乙第六号証の二)があること、係争事業年度の翌年度においても右建物からの賃料収入が原告の当該年度の帳簿に計上されていること、以上の事実は当事者間に争いがない。さらに、成立に争いのない乙第四号証の一ないし四(ただし、同号証の一及び三の欄外記載部分については証人川畑璋一の証言により真正に成立したと認められる。)、第五号証、第一六号証、前掲乙第一一、第一五号証及び証人川畑璋一、同岩本忠の各証言によれば、乙第一五号証の原告の家賃地代勘定及びその裏帳簿である乙第一一号証にも右賃料収入の一部が計上されていること、橋本豊造個人の昭和四二年分、昭和四三年分の所得税について申告がなかつたため決定処分がなされたところ、同人個人から異議申立てがあり、右賃料収入は原告に帰属する旨の主張がなされたことが認められる。以上の各事実によれば、佐藤茂からの賃料収入は原告に帰属するものというべきである。そして、成立に争いのない右乙第六号証の二と前掲第一五号証及び証人岩本忠の証言によれば、右賃料収入は月額三万円、係争事業年度中の合計額三六万円であるが、乙第一五号証の家賃地代勘定に計上されたのはそのうちの三か月分の九万円だけであり、差額の二七万円は計上漏れとなつていたことが認められる。

原告は、橋本豊造個人が原告に賃貸していた物件は江戸川区中央三丁目所在の建物だけで、佐藤茂に対する賃貸建物を含めてその他の物件はすべて橋本豊造個人が直接賃貸していたものであるから、右江戸川区中央三丁目所在建物からの賃料収入だけが原告に帰属し、その他の建物からの賃料収入は橋本豊造個人に帰属するものであり、右橋本豊造個人収入の一部が原告の帳簿に計上されたのは記帳者の誤記であり、原告を当事者とする契約書があるのは橋本豊造個人が、賃貸人になると明渡を受けることが困難となるので一時使用の目的とするための仮装であり、原告の翌事業年度の帳簿に右収入が計上されているのは原告の経営状態を粉飾して対外的信用を確保するための手段にすぎないと主張し、原告代表者はこれに沿う供述をしている。しかし、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第一三、第一四、第二二号証(第一四、第二二号証の公証人作成部分の成立は争いがない。)によれば、橋本豊造個人が従前橋本金属工業株式会社に賃貸していた江戸川区中央三丁目所在の物件を昭和四〇年六月一七日の契約により原告に賃貸することとした事業は認められるものの、同人と原告との関係に照らせば、そのことから直ちに、それ以外の同人所有物件については原告が賃貸人となつて貸すことがありえないと割り切ることは早計というべきであり、この点に関する原告代表者の供述を裏づける客観的証拠は存在しない(右供述と同旨の甲第二号証の三、第四、第一一、第一八ないし第二〇号証の記載は原告の主張の反覆にすぎない。)。また、前記の誤記や仮装、粉飾であるとの同人の供述も、それ自体極めて不自然であつて、にわかに措信し難い。なお、原告は、国税不服審判所長が橋本豊造個人の所得税についての審査請求の審理において右原告主張事実を認めた旨主張するが、その証拠はなく、かえつて、成立に争いのない甲第四七号証によれば、同所長は異議決定が橋本豊造個人の収入に帰属するとしたものを原告に帰属すると判断していることが認められるところである。そして、他に佐藤茂からの賃料収入三六万円が原告に帰属するとの前段認定の事実を左右するに足りる証拠はない。

2  別紙二(一)2の門脇育郎からの賃料収入

右門脇からの賃料収入が原告に帰属するものであることは当事者間に争いがなく、前掲乙第一五号証によれば、同号証の家賃地代勘定には係争事業年度中の同人からの賃料収入として一四万一六〇〇円が計上されていることが認められる。しかし、前掲乙第一一号証によれば、原告が同人から収受した家賃収入は昭和四二年四月分も含め毎月一万二〇〇〇円であり、係争事業年度中の合計額は被告主張の一四万四〇〇〇円と認められる。したがつて、乙第一五号証の家賃地代勘定には差額の二四〇〇円の計上漏れがあるというべきである。

原告は、右門脇が入居したのが昭和四二年四月七日であるから、四月分について一日から六日までの分に相当する二四〇〇円を控除した結果、一四万一六〇〇円を計上した旨を主張するが、四月分として一万二〇〇〇円を収受している以上その全額を計上すべきものである。

3  別紙二(一)3ないし15の各賃借人からの賃料収入

原告が右各賃借人から被告主張の金額の賃料収入を受けるべき関係にあつたことは当事者間に争いがない。原告は、現実に受領した金額だけを帳簿に計上したもので、履行を受けなかつたものや回収不能のものは収入とならない旨を主張するが、履行を受けていないというだけで直ちに収入にならないと解すべき根拠はなく、また、当該債権について貸倒損失として処理できるような事実があつたことを認めるに足りる証拠はない。したがつて、右各賃借人からの賃料収入については、右両者の差額にあたる別紙二(一)3ないし15の各差引更正額欄のとおりの計上漏れがあつたというべきである。

4  別紙二(二)1ないし5の岩田ボールト工業株式会社らからの賃料収入

右各賃借人に対して原告が品川区西五反田二丁目所在の建物を賃貸したかのような記載のある契約書(1の岩田ボールト工業株式会社については乙第六号証の一、3の株式会社三和工業社については同号証の五)が存在すること、右賃貸物件である同所三〇番九号所在家屋番号三〇-五-六の建物及び同所三一番五号所在建物について原告が登記簿上所有者となつていることは、当事者間に争いがない。そして、前掲乙第一一号証によれば、右各賃借人のうち3の株式会社三和工業社を除くその余の賃借人からの賃料収入が原告の家賃地代勘定の裏帳簿である乙第一一号証に計上されていることが認められる。以上の事実によれば、右賃料収入は原告に帰属するというべきである。

原告は、右物件について、従前原告と橋本豊造個人との間にあつた賃貸借契約(甲第一五号証によるもの)は係争事業年度以前の昭和四一年五月一八日に解除されたから原告が係争事業年度当時右物件を第三者に転貸する余地はなかつた旨を主張し、これに沿う趣旨の記載がある契約書(甲第三〇号証)及び原告代表者の供述があるが、右解除が現実に行われたかどうか疑わしいことは後記6判示のとおりであるし、しかも、その後の昭和四二年四月に原告が右物件を賃貸する旨の記載がある前記乙第六号証の一及び五の契約書が作成されている以上、右賃料収入が原告に帰属するとの前記認定を覆すには足りない(原告代表者は、右乙第六号証の一及び五の契約書は期間満了時に明渡を受けることを容易にするために賃貸人名義を仮装したものであると供述するが、不自然であつてにわかに措信できない。)。また、原告は、賃貸建物の一部が原告名義で登記されている理由につき、右建物はかつて原告の関連会社である橋本金属工業株式会社の所有であつたもので、同会社の破産の際に原告名義にしたが、昭和四一年五月一八日同会社破産管財人との間の和解により橋本豊造個人がこれを譲り受けることとなつたものであり、ただ原告の対外的信用を確保するためにその後も原告名義のままにしていたにすぎないと主張する。しかし、成立に争いのない甲第一六号証、原本の存在と成立に争いのない同第四八号証の一、二、及び原告代表者尋問の結果は、建物所有権の帰属に関する限り、右主張のような事情によつてこれが橋本豊造個人に帰属したことを的確に明らかにする証拠としては説得力に欠け、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そして、前掲乙第六号証の一、五(成立に争いがない。)、同第一一、第一五号証及び証人岩本忠の証言並びに弁論の全趣旨(原告が主として賃料の帰属主体を争い、賃料額を争う形跡が窺われないこと)によれば、前記各賃借人からの賃料収入額は係争事業年度中において別紙二(二)1ないし5の各更正額欄記載のとおりであること、しかしながら、これらの収入が乙第一五号証の家賃地代勘定には計上されていないことが認められる。

5  別紙二(二)6ないし8の有限会社矢崎ふとん店らからの賃料収入

前掲乙第四号証の一ないし四、同第五、第一一、第一六号証及び証人川畑璋一の証言によれば、右各賃借人からの賃料収入が原告の家賃地代勘定の裏帳簿である乙第一一号証に計上されていること、前記のとおり橋本豊造個人が同人の所得税についての決定処分に対する異議申立時に右賃料収入が原告に帰属する旨を主張していたことが認められる。また、原告が右各賃借人に対し品川区西五反田二丁目三〇番七号所在の建物敷地の一部を駐車場として賃貸する旨の記載がある契約書(6の有限会社矢崎ふとん店については乙第六号証の四、7の千曲印刷所については同号証の三)が存すること、右建物は原告が橋本豊造個人から賃借していたものであることは当事者間に争いがなく、右契約書の賃貸人名義が仮装である旨の原告代表者の供述はたやすく措借できない。以上の事実によれば、右各賃借人からの賃料収入は原告に帰属するというべきであり、これに反する原告代表者の供述は採用しない。

そして、前掲乙第六号証の三、四(成立に争いがない。)、同第一一、第一五号証及び証人岩本忠の証言並びに弁論の全趣旨(原告が主として賃料収入の帰属主体を争い、金額を明示的に争つていないこと)によれば、係争事業年度の右賃料収入額は別紙二(二)6ないし8の各更正額欄のとおりであること、しかしながら、これらの収入が乙第一五号証の家賃地代勘定には計上されていないことが認められる。

6  別紙二(二)9、10の株式会社尾張屋らからの賃料収入

原告が台東区浅草雷門二丁目一六番一〇号所在の建物を株式会社尾張屋に賃貸する旨の記載がある契約書(乙第一八号証)があること、原告の係争事業年度の確定申告の基礎となつた貸借対照表の資産の欄に右建物が計上されていることは当事者間に争いがなく、右賃貸人名義が仮装のものである旨の原告代表者の供述は措信できない。そして、前掲乙第四号証の一ないし四、同第五、第一一、第一六号証及び証人川畑璋一の証言によれば、右賃借人両名からの賃料収入が原告の家賃地代勘定の裏帳簿である乙第一一号証に計上されていること、前記のとおり橋本豊造個人がその所得税についての決定処分に対する異議申立時に右賃料収入が原告に帰属する旨を主張していた事実が認められ、また、原本の存在及び成立に争いのない乙第一九号証によれば、原告が昭和四三年二月分の右賃料を株式会社尾張屋から受領した旨の領収書があることが認められる。もつとも、右尾張屋との間においては、橋本豊造個人が賃貸人と記載されている契約書(甲第四二、第四三号証)もあるが、前掲乙第五号証及び証人川畑璋一の証言によれば、橋本豊造個人は、その所得税についての異議申立ての審理において、右甲第四二、第四三号証の契約書の存在を念頭においた江戸川税務署係官川畑璋一から「契約書をみますと尾張屋さんに貸したのは個人が貸したように受け取れますが、此の点如何ですか」と質問されたのに対し「これはタイプをするとき漏れたものと思われますが、法人の所有で既に法人の方で申告しております。当方の単なるミスと思います。」と答えていることが認められ(右答弁が誤りであつたとする甲第三五号証は採用しない。)、甲第四二、第四三号証の契約書の賃貸人の表示は正しくないものと認められる。以上の事実によれば、右各賃借人からの賃料収入は原告に帰属するものというべきであり、これに反する原告代表者の供述は採用できない。

原告は、右建物は前記4の建物と同様に従前原告が橋本豊造個人から賃借していたことがあるが、昭和四一年五月一八日に甲第三〇号証によつて右賃貸借が解除されたから、原告は無権原であつたと主張し、原告代表者も同旨の供述をする。しかし、右甲第三〇号証による解除は、その文言から明らかなとおり台東区浅草雷門二丁目の建物を収去する必要が生じたことを前提とするものであつたところ、証人岩本忠の証言によれば、その後においても現実には右建物の収去は行われなかつたことが認められることに徴すると、右解除が実際に効力を生じたものとされていたとはにわかに断じがたく、このことは、その後に原告を賃貸人とした前記乙第一八号証の契約書が作成されたことからも裏づけられるところである。したがつて、いまだ前記認定を動かすには足りない。

そして、前掲乙第一一、第一五号証によれば、係争事業年度の右賃料収入額は株式会社尾張屋から二八四万五〇〇〇円、野坂晴夫から三万六〇〇〇円であつたこと、しかしながら、これらの収入が乙第一五号証の家賃地代勘定には計上されていないことが認められる。

7  別紙二(二)11の小畑実からの賃料収入

前掲乙第一一、第一五号証によれば、小畑実からの係争事業年度中の賃料収入として一万四〇〇〇円が原告の家賃地代勘定の裏帳簿である乙第一一号証に計上されていること、したがつて、右賃料収入は原告に帰属すると推認されるところ、乙第一五号証の家賃地代勘定には右収入が計上されていないことが認められ、これに反する原告代表者の供述は採用しない。

8  別紙二(二)12、13の扇谷つよしらからの賃料収入

前掲乙第四号証の一ないし四、同第五号証、同第一一、第一六号証、成立に争いのない同第六号証の六、及び証人川畑璋一の証言によれば、右各賃借人からの賃料収入が原告の家賃地代勘定の裏帳簿である乙第一一号証に計上されていること、前記のとおり橋本豊造個人がその所得税についての決定処分に対する異議申立時に右賃料収入が原告に帰属する旨を主張していたこと、右13の高橋雄一との間において原告が賃貸する旨の記載がある契約書(乙第六号証の六)があることが認められる。右事実によれば、右賃料収入は原告に帰属するというべきであり、これに反する原告代表者の供述は採用しない。

そして、右乙第六号証の六、前掲乙第一一、第一五号証によれば、係争事業年度の賃料収入額は12の扇谷つよしから三〇万円、13の高橋雄一から一八万円であること、しかしながら、これらの収入は乙第一五号証の家賃地代勘定には計上されていないことが認められる。

9  別紙二(二)14ないし19の各賃借人からの賃料収入

前掲乙第一一、第一五号証によれば、右各賃借人のうち19の山久を除くその余の賃借人からの賃料収入が原告の家賃地代勘定の裏帳簿である乙第一一号証に計上されていること、したがつて、右賃料収入は原告に帰属すると推認されるところ、その係争事業年度の収入額は、16の高橋恵一分が四〇〇〇円であるほかは、別紙二(二)の更正額欄のとおりであること、しかしながら、右収入はいずれも乙第一五号証の家賃地代勘定には計上されていないことが認められる。

なお、19の山久からの賃料収入については、それが原告に帰属することを認めるに足りる証拠はない。

10  まとめ

そうすると、前記1ないし3(即ち別紙二(一)1ないし15)の計上漏れ家賃収入合計七八万二四一五円と前記4ないし9(即ち別紙二(二)1ないし18)の簿外家賃収入合計四七二万九九二〇円とを加算した五五一万二三三五円(合計三三件)は乙第一五号証の原告の家賃地代勘定に記録されていなかつた家賃収入であり、かつ、既に認定した帳簿の作成事情をも合せ考えると、原告はあえて右収入に関する取引を右家賃地代勘定に隠ぺいして記録したと認めるべきである。

五  法一二七条一項三号該当性その2(台貫料収入の隠ぺい)について

原告が昭和四〇年六月一七日橋本豊造個人から台貫設備を賃借した旨の契約書(甲第一四号証)があること、原告名義で右台貫設備について計量証明事業の登録がなされていたことは当事者間に争いがなく、また、前掲乙第七、第八号証の各二によれば、原告の乙第七号証の二の振替日記帳には台貫についての取引が記録され、第八号証の二の総勘定元帳には台貫勘定が設けられて記録がされていることが認められる。これらの事実からみて、台貫料収入は原告に帰属するというべきである。もつとも、原告と橋本豊造個人との間においては、係争事業年度開始時期にあたる昭和四二年四月一日付で同日以降原告が台貫設備の賃借権を一応失なう旨の記載がある契約書(甲第一七号証の一)が作成されているが、他方、成立に争いのない乙第二号証によれば、両者はその後の昭和四三年三月二〇日に同年四月一日から台貫の貸借をやめるという趣旨の契約書(乙第二号証)を取り交わしていることが明らかであつて、これに照らすと、右甲第一七号証の一の契約書は記載されたとおりの効力が直ちに生じていなかつたものと推認するのが相当であり、これに反する原告代表者の供述は採用できない。また、成立に争いのない乙第三号証の一、三、四によれば、前記計量証明事業の登録名義は昭和四七年八月頃原告から橋本豊造個人に変更されたことが認められるが、係争事業年度から約五年後であることなどからみて、当初原告名義に登録されたのが錯誤に基づくものであつたとする原告代表者の供述や甲第三四号証の同旨の記載はたやすく措信し難い。さらに、橋本豊造個人を申告者とし台貫料収入が同人個人に帰属すると記載された「昭和四二年分の所得税の確定申告書」と題する書面(甲第四四号証)及び同内容の記載がある「昭和四二年分の所得税の修正申告書」と題する書面(甲第四五号証)があるが、それらが税務署に提出されたのは前者が昭和四五年九月一九日、後者が昭和四六年三月一八日であり、いずれも、橋本豊造個人の昭和四二年分の所得税について台貫料収入の点も含め全く確定申告がされなかつたために決定処分が行われた昭和四四年一二月一六日(この事実は前掲甲第四七号証及び証人川畑璋一の証言により認められる。)より後のことであり、また、証人岩本忠の証言によれば、橋本豊造個人の昭和四四年分の所得税については確定申告がなされたが、その際においても台貫料収入が橋本豊造個人に帰属するとの申告はなされなかつたことが認められるから、右甲第四四、第四五号証及びその記載内容を踏まえた原告代表者の供述も台貫料収入が原告に帰属するとの前記認定事実を左右するものではない。甲第一一、第一九、第二〇号証は原告の主張の反覆にすぎず、他に右認定事実を動かすに足りる証拠はない。そして、前掲乙第八号証の二によれば、係争事業年度の右台貫料収入の金額は少なくとも六六万五三三〇円はあつたことが認められる。

ところが、前掲甲第一号証によれば、係争事業年度の原告の決算書には右台貫収入が全く計上されていないことが認められ、また、試算表に計上されたことを窺わせるに足りる証拠もない。そうすると、原告は、右台貫料収入を決算に関して作成された書類には記載せずこれを隠ぺいしたというべきである。

六  法一二七条一項三号該当性その3(支払地代の仮装計上)について

原告の係争事業年度の乙第一五号証の家賃地代勘定に架空の支払地代一〇一万九九九〇円が計上されていることは当事者間に争いがない。

そして、前掲乙第一号証及び証人岩本忠の証言によれば、右のような虚偽の取引が記録されたのは決算時に生じた借方及び貸方の合計額のくい違いを一致させるためであり、当初は鉛筆で書かれていたのを原告代表者が自ら黒字でなぞつて明らかにしたものであることが認められ、記帳担当者の単なる誤記であるとの原告代表者の供述は採用できない。そうすると、右支払地代の計上は現実には取引がないのにこれをあるかのように仮装したものであるといわざるを得ない。

七  右三ないし六のとおり、原告の係争事業年度にかかる帳簿書類の記録は法一二六条一項に規定する規則で定めるところに従つて行われておらず、また、原告の帳簿書類の記録には仮装隠ぺいがあり、前者は法一二七条一項一号、後者は同三号の青色承認取消事由に該当するといわなければならない。

八  原告は、本件処分には裁量権の濫用がある旨を主張する。しかし、被告が当初から原告の青色承認を取り消す目的をもつて調査を開始したことその他原告主張の取消権濫用の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

また、原告は、本件処分通知書の付記理由が不十分であると主張するが、成立に争いのない甲第二号証の一によれば、本件処分通知書には法一二七条一項一、三号に掲げる事実に該当するとして五項目に分けて被告の再反論二に引用されているとおりの記載がされていることが認められる。右記載のうちには概括的なものもないではないが、本件青色承認取消に該当する具体的事実としての特定を欠くとまではいい難く、本件処分を違法ならしめるには至らないものというべきである。

九  以上のとおりであり、原告の青色承認を取り消した本件処分に原告主張の違法はないというべきである。よつて、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 川崎和夫 裁判官 岡光民雄)

別紙一

1 原始分(当初作成されたと認められるもの)

〈省略〉

2 改訂分(原始分を改訂して作成したと認められるもの)

〈省略〉

甲第二号証の二は、原始分の乙第一五号証昭和四二年三月三一日の大場らに対する支払地代一〇一万九九九〇円の記載が横線で抹消されているものであり、乙第一四号証の二の総勘定元帳の家賃地代勘定と同一のものである。

3 改訂分の整備版(改訂分に残高や相手(方)勘定を書き加えて整備したと認められるもの)

〈省略〉

別紙二 家賃収入計上漏れの明細

(一) 原告が公表帳簿に計上し申告した家賃収入のうち計上漏れのあるもの

〈省略〉

なお原告が公表帳簿に計上した家賃収入のうち、過大計上されたものが金森義雄ほか九件、二一万三〇五〇円ある。

したがって、原告が公表帳簿に計上した家賃収入のうち、計上漏れ分は右計七八万二四一五円から過大計上分二一万三〇五〇円を差引いた五六万九三六五円である。

(二) 家賃収入計上漏れ(簿外収入)

〈省略〉

(三) 家賃収入計上漏れ合計五三三万六二八五円((一)の計五六万九三六五円と(二)の計四七六万六九二〇円を合計したもの)

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